ささやかな話

好きなもののことばかり書こうと思います

猫を迎えた日

我が家に猫をお迎えしたのは、5年前の今日のことだ。

 

行きがけにちゅ〜るを仕入れて、わくわくしながら保護猫カフェへ向かった。

普段おとなしくあまり動かないタイプの猫だったので、なんとなく、すんなり連れて帰れそうだなと思っていた。

 

甘かった。

 

トライアルの手続きを済ませ、猫を抱っこさせてもらったところまでは良かったが、一緒に写真を撮ったあたりで何かを察したらしい。

全身でいやいやをしてこちらの手を振りほどき、高いところにある木箱にダッシュで逃げ込んだ。

暗くて狭いそこが彼のいつものくつろぎのスペースだった。

「あんなに機敏に動けたんだ……」とスタッフさんも驚くほどの素早さだった。

 

複数のスタッフさんが奮闘してくださったがなかなかつかまらず、こちらも、そんなに嫌なのか……嫌だよね……とだんだん申し訳ない気もちになってきた。

 

その間、別の猫さんが自らキャリーバッグに入り込んでおり、現場はさらに混乱した。

 

なんとか確保して車に乗りこんだものの、道中ずっと不安そうに鳴き続けるので、ますます申し訳ない気もちになった。

 

家に着いてキャリーバッグを開けるなり再びダッシュ

扉の開いていたクローゼットに逃げ込み、扉の開いていた風呂場に逃げ込み、最終的にこたつに逃げ込んで、そこから出てこなくなった。

 

2〜3時間たって、試しにちゅ〜るを進呈してみたら、こたつにこもったまま食べた。

とりあえず食べてくれたことにほっとした。

 

さらに2〜3時間たって、おなかがすいただろうと再びちゅ〜るを進呈したら、再びこたつにこもったまま食べた。

食欲はあるらしい。

 

夜遅くなってようやく少し警戒心がとけたのか、こたつから出てきてカリカリを食べ、トイレを使ってくれたときは、安心して涙が出た。

 

それ以来、こたつは彼にとって安住の地となった

 

今では「生まれたときからここに住んでますけど」とでも言うような顔でこたつを守り、気が向くと膝に乗ってきて、ごろごろとのどを鳴らしている。

 

大変な思いをしてうちに来てくれてありがとう。

 

ちなみに、おなかがあまり強くないことがわかったので、その後は3日に1回程度しかちゅ〜るをあげていない。

ある日突然猫がいなくなったら

縁あって、数年ぶりに舞台を見に行った。

村上春樹さんの代表作『ねじまき鳥クロニクル』の舞台だ。

 

村上さんについては、

新刊の発売日に開店前から書店に並んだり、

ノーベル文学賞の受賞に備えて待機するほどの熱心なファンではないけれど、

特設サイトで読者からの質問を募集すると聞けばメールを送ったり、

都内でトークイベントが開催されると聞けば抽選に応募したりするくらいにはファンである。

(ちなみに、質問には運よく返信をいただけたものの、なぜあんなにくだらない質問をしてしまったのかいまでも後悔している)

 

舞台はすばらしかった。

演者さんたちの圧倒的な身体能力と歌声、変幻自在の舞台装置、厚みのある生演奏。

そして、あの長い物語をぎゅっと凝縮した脚本。

3時間弱、ただひたすら見入っていた。

 

ちょうど見に行く数日前に、出演者の方から残念な発言があったことを知って、

行くのをやめようか迷ったりもしたけれど、行ってよかったと思う。

それだけに、あの発言はいっそう残念でもある。

 

舞台を見てあらためて気づいたけれど、

村上さんの描く人物の、理不尽なできごとに対して、ひとりでもなんとか向き合おうとするところが好きなのかもしれない。

地味だし不器用だし痛い目にあうことも多い。

でも誠実だなと思う。

 

それと、村上さんの描く猫も。

村上さんが飼っていた猫や出会った猫の話はエッセイにも書かれているし、

小説にもたびたび猫が登場する。

読むたびに、猫の柔らかさや温かさを思い浮かべて幸せな気もちになる。

(ただし、猫がひどい目にあって読むのがしんどくなる小説もある)

 

ねじまき鳥クロニクル』では、主人公と妻の飼っていた猫がある日突然いなくなり、

それからいろいろと不思議なことが起こりはじめる。

 

ある日突然うちの猫がいなくなったらどうするだろう。

それだけで話が終わってしまいそうだ。

とても耐えられそうにない。

 

こちらの気もちなどつゆ知らず、プログラムの匂いを確かめる猫

思い立ったが吉祥寺

数年ぶりに吉祥寺へ行った。

 

吉祥寺は、はじめて一人暮らしをした街だ。

住む前は、なんとなくメジャー感がありすぎて、自分にはあまり向いていなさそうだなと思っていたけれど、

縁あって住んでみたら、好きな場所も人も少しずつ増えて、

振り返ってみると「楽しかったな」という思い出しか出てこない。

 

別の街に引っ越してからも、気もちが行き詰まったときはよく吉祥寺に行った。

井の頭公園をひたすら歩いて、疲れたらベンチで休んで、また歩いて、

少し元気が出たら駅のほうに戻って、

スパ吉のパスタでおなかを満たして、A.B.Cafeでコーヒーを飲んで帰るのが常だった。

 

ただ、ここ数年は、年をとったせいか人の多さに疲れてしまい、

むしろ元気のあるときにしか行けないので、しばらく足が遠のいていた。

 

ひさしぶりに行こうと思い立ったのは、

スパ吉が復活していることを今さらながら知ったからだ。

 

カタールW杯でも審判をつとめた山下良美さんのインタビューを読んでいたら、

試合前によく食べに行くお店として、スパ吉の名前が出てきた。

あれ、コロナ禍で閉店したんじゃなかったっけ、と思って調べたら、

閉店した翌年に復活していたらしい。

 

www5.targma.jp

 

ちなみにこの「サッカー、ときどきごはん」の連載は、

いつも真面目にサッカーの濃い話をしていて読みごたえがあるのだけれど、

締めで唐突に「……で、食べものですよね」と話が変わって、そのギャップもまた楽しい。

 

ひさしぶりのスパ吉は、ハモニカ横丁からサンロードに移転して、カウンター席だけのシンプルなお店になっていた。

当時は高菜とか納豆のパスタを食べることが多かったけれど、ここは定番のミートソースにした。

紙エプロンをつけて、ソースと麺を丹念に混ぜてから、ラーメンを食べるときのように集中して一気に食べる。

もちもちの平打ち麺が懐かしくて嬉しかった。

 

あの頃好きだった場所はもうだいぶなくなってしまったし(A.B.Cafeも、もうない)、

仲良くしてもらった人もほとんどいなくなってしまった。

スパ吉の復活に遅ればせながら感謝しつつ、

「いつまでもあると思うな推しの店」を噛みしめる9月の終わり。

関東の片隅から阪神の勝利を見守る

阪神タイガースがついにリーグ優勝した。

 

応援していると言えるほど熱心ではないけれど、

父が阪神ファンだった影響で、

いまだに「阪神勝つといいな」とぼんやり思う癖がついている。

刷り込みとは恐ろしい。

 

子どもの頃はわけもわからず阪神の野球帽をかぶらされていたし、

普段は「漫画を読むと頭が悪くなる」と言われていたのに(昭和の頃はそういう意見の人が少なからずいた)、

高橋春男先生の『GO GO虎エ門』はむしろ推奨された。

 

家にテレビが1台しかなかったので、

試合中継がある日にテレビを独占されるのは嫌だった。

父は阪神が勝てば機嫌がよく、負ければずっと文句を言っていた。

 

Jリーグが始まって、母がヴェルディ川崎のファンになり、

家庭内の多数派がサッカー派になったことで、テレビの独占権を失ったときは、

サッカーの文句ばかり言っていた。

 

そのわりに、父が球場に行っていた覚えはほとんどない。

甲子園にもたぶん一度しか行かなかったんじゃないかと思う。

母とふたりで観戦ツアーに参加したものの、

「応援がうるさくて試合どころじゃなかった」と文句を言っていた。

しかしメガホンはちゃんと買ってきていた。

 

こうやって思い出すと、いつも文句しか言っていない。

 

父が亡くなった後に遺品を整理して、雑誌、VHS、応援歌の入ったCDなど、

阪神関連のものが思ったより多くて驚いた。

 

プロ野球人形の「イレコミ君」もいつからか我が家にあった。

ズームイン!!朝!」のプロ野球コーナーに出ていたあれだ。

もうだいぶ日焼けしてしまったし、少し動かすとすぐにバットを落としてしまうけれど、

いまでも阪神が勝った日はにこにこして、負けた日は泣いて、大負けした日は怒っている。

 

きょとん顔もするイレコミ君

 

昨夜は「オマリーの六甲おろし」をかけてお祝いした。

生前の父にこれを聞かせたとき、楽しそうに笑っていたことを思い出す。

 

阪神タイガースのみなさまおめでとうございます。

CSも関東の片隅から見守っています。

李忠成のボレーとあの夜の父

李忠成選手が現役引退を発表した。

 

李忠成選手といえばやはり、

2011年のアジア杯決勝、オーストラリア戦で決めたボレーシュートが心に残る。

 

あの夜は実家で試合を見ていた。

 

キックオフが夜中だったので、片づけなどして待っていたら、父の様子がどうもおかしい。

呼吸が苦しそうだった。

前年に肺気胸で二度入院していたので、再発したのかもしれないと思い、救急車を呼ぼうと言ったけれど、

「要らない」「カレーのせいだ」と譲らない。

夕飯にカレーを食べたのだ。

カレーのせいなはずないでしょと言っても、

「俺をしゃべらせるな」「サッカーでも見てろ」と怒られる始末。

理不尽だ。

 

仕方なく、苦しそうな父を気にしながら試合を見た。

ケーヒルキューウェルにやられまくってはらはらした前半。

徐々にペースをつかんで反撃したものの、なかなか決められない後半。

0-0で延長戦になった後半での、あのゴールだった。

涙が出そうなくらい美しかった。

 

翌朝起きると、父は開口一番「病院に行く」と宣言した。

だから昨夜さんざん言ったのに。

やはり肺気胸で、そのまま入院となった。

猫好きの猫アレルギー問題

スタバでコーヒーを飲んでいて、隣の席の女の子と男の子の会話が耳に入った。

これから2人で保護猫カフェに行くらしい。

女の子のほうは、猫が好きなのに猫アレルギーで、猫にさわるのは難しいけれど、別の保護猫カフェにも何度か行って、猫を眺めていると話していた。

 

猫が好きなのに猫アレルギー。

なんてせつない体質だろう。

 

自分も猫と暮らすことを考えはじめた頃に、そもそも猫アレルギーだったらどうしようと迷ったことがある。

 

ある猫カフェに行った後、一度だけ、くしゃみと鼻水が止まらなくなったことがあったのだ。

また、猫が原因ではなかったけれど、じんましんがひどくていろいろな薬を試していた時期もある。

 

ひとまず皮膚科に行って、アレルギー検査(特異的IgE抗体検査)をしてもらった。

「ネコ皮屑」のアレルギー判定は「クラス2」で、陽性。

先生によると、陽性の中では数値が低い方だけれど、悪化する可能性もあるから、猫は飼わないほうがいいでしょうとのことだった。

そんな。

 

諦めきれずに「猫 アレルギー」で検索していたときに見つけたのが、

「猫アレルギーですけど」というそのものずばりの連載だった。

 

sippo.asahi.com

 

著者の安田有希子さん(当時はヤスダユキさん)は、

猫と暮らして4年めに猫アレルギーが発覚したものの、

「こまめな掃除」「換気」「寝室には入れない」などの対策をして、猫との暮らしを続けておられた。

 

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もちろん、命を預かるのだから無責任なことはできないけれど、

対策をして一緒に暮らすという選択肢があるならぜひそうしたい。

そう思って、猫を迎えるための準備を進めることにした。

 

その後、ご縁があって、

うちの猫がお世話になっていた保護猫カフェに何度か通った。

アレルギーらしい症状は一度も出なかった。

 

里親の申し込みをして、トライアル期間中もとくに問題はなく、

猫のほうも徐々に慣れてくれた様子だったので、正式譲渡となった。

 

それから5年近く一緒に暮らしているけれど、幸いなことに症状はまだ何も出ていない。

夜は枕のところに猫が来てくれるので、もふもふの毛の匂いをかぎながら眠りにつくという幸せを噛みしめている。

もしかしたら、そのせいでアレルギーが悪化している可能性もなくはないが……。

 

ちなみに安田さんの連載によると、9年めで夫さんもアレルギー(仮)を発症されたとのことなので、油断はできない。

対策もバージョンアップされている。

sippo.asahi.com

 

家に帰って猫を撫でながら、ひとりで感極まって、

この先何があってもきみとの暮らしを続けていくからね、と思いを伝えたけれど、

猫はなんだかよくわからないという顔をしていた。

 

聞き耳を立てておいて余計なお世話だけれど、

猫アレルギーの彼女にも、猫との無理のない関わり方を続けてほしいなと思う。

大量の芋煮をふるまうロナウジーニョ

月初のささやかな楽しみに、カレンダーをめくるというのがある。

内巻敦子さんのイラストのカレンダー。

J SPORTSのサッカーニュース番組「Foot!」とのコラボグッズだ。

 

Foot!」を見るようになったのは、もう10年以上前のことだ。

サッカーは好きな方ではあったけれど、日本代表の試合とW杯を見る程度だったし、

テレビ自体ほとんどつけることもなかった。

でも、父親の病気で急遽実家に帰ることになり、その頃ちょうど職場も変わって、

なんとなく気もちが落ち着かず、なんとなくテレビをつけるようになって、

たまたま見るようになったのが、「Foot!」だった。

 

当時は知らない選手やニュースがほとんどだったけれど、

倉敷保雄さんの笑顔とやさしい語り口にいつもほっとさせられていたし、

内巻さんの遊び心あふれるイラストも楽しみで、

サッカーってやっぱり面白いな、もっと詳しく知りたいなとしみじみと思った時期だった。

 

カレンダーを買って部屋に飾るという習慣もなかったのに、

内巻さんのイラストなら飾りたいなと思って、予約して待つのが年末の恒例になった。

 

今年のカレンダーには、

カタールW杯が終わったのが去年の12月だったにも関わらず、

W杯のイラストのポストカードがおまけでついてきたのも嬉しかった。

 

今年の6月に「Foot!」が終了して、

内巻さんの新しいイラストも今までのようには見られなくなってしまった。

 

来年のカレンダーはもう発売されないのかもしれないけど、

とりあえずあと3回は楽しみにめくって、

イラスト記録集を大切に眺めながら過ごそうと思う。

 

store.jsports.co.jp

 

今月のカレンダーは大量の芋煮をふるまうロナウジーニョ