数年ぶりに吉祥寺へ行った。
吉祥寺は、はじめて一人暮らしをした街だ。
住む前は、なんとなくメジャー感がありすぎて、自分にはあまり向いていなさそうだなと思っていたけれど、
縁あって住んでみたら、好きな場所も人も少しずつ増えて、
振り返ってみると「楽しかったな」という思い出しか出てこない。
別の街に引っ越してからも、気もちが行き詰まったときはよく吉祥寺に行った。
井の頭公園をひたすら歩いて、疲れたらベンチで休んで、また歩いて、
少し元気が出たら駅のほうに戻って、
スパ吉のパスタでおなかを満たして、A.B.Cafeでコーヒーを飲んで帰るのが常だった。
ただ、ここ数年は、年をとったせいか人の多さに疲れてしまい、
むしろ元気のあるときにしか行けないので、しばらく足が遠のいていた。
ひさしぶりに行こうと思い立ったのは、
スパ吉が復活していることを今さらながら知ったからだ。
カタールW杯でも審判をつとめた山下良美さんのインタビューを読んでいたら、
試合前によく食べに行くお店として、スパ吉の名前が出てきた。
あれ、コロナ禍で閉店したんじゃなかったっけ、と思って調べたら、
閉店した翌年に復活していたらしい。
ちなみにこの「サッカー、ときどきごはん」の連載は、
いつも真面目にサッカーの濃い話をしていて読みごたえがあるのだけれど、
締めで唐突に「……で、食べものですよね」と話が変わって、そのギャップもまた楽しい。
ひさしぶりのスパ吉は、ハモニカ横丁からサンロードに移転して、カウンター席だけのシンプルなお店になっていた。
当時は高菜とか納豆のパスタを食べることが多かったけれど、ここは定番のミートソースにした。
紙エプロンをつけて、ソースと麺を丹念に混ぜてから、ラーメンを食べるときのように集中して一気に食べる。
もちもちの平打ち麺が懐かしくて嬉しかった。
あの頃好きだった場所はもうだいぶなくなってしまったし(A.B.Cafeも、もうない)、
仲良くしてもらった人もほとんどいなくなってしまった。
スパ吉の復活に遅ればせながら感謝しつつ、
「いつまでもあると思うな推しの店」を噛みしめる9月の終わり。